ミルキーウェイ

七夕ネタで短文です。
若干NLですんうちの子イェ✌️
暇つぶしにどうぞ



しっとりとしたぬるい空気が纏わりつく。

随分と前に陽が沈んだ空を見上げる。暖かな炎のような灯に包まれた街を見下ろす丘の上。この辺りは随分と暗いので星がとても綺麗に見える。
頭上には今にも零れ落ちてしまいそうな星空。一層濃く見えるサラサラと流れる星達が夜空の中で一際輝く2つの星を隔てている。

ベガとアルタイル。織姫と彦星。

昔マスターから聞いた話によると七夕は天の川で別たれた2人が一年の内唯逢うことが許される日なんだそうだ。極東では祭なんかもあると聞いた。勿論自分たちの住むこの街ではそんなロマンチックな話などない。あるとすれば織姫と彦星を隔てる星々にまつわる神話くらいである。

少しだけ冷たい風を受けながら腰を下ろし再び空を見る。いつもと変わらぬ位置で輝く2つの星々はここから見えないところで無事に出逢えたのだろうか。織姫の袖を濡らすのが川の水ではなく涙でなければ良いのだが、などと余計な心配をする。

夜が更けるに連れ、紺色は一層濃くなり光の粒の輝きは強さを増す。だんだんと吸い込まれそうになる星空に魅了される。織姫と彦星を祝福する様に散りばめられた他の星々が自分の目に写し取られてしまうのではないか、という錯覚に陥る。
街の灯が弱くなり、いよいよ星空に飲み込まれてしまいそうになったその時、不意に肩に温もりを感じた。

「見つけた」

そこには織姫と呼ぶにはあまりに見慣れた顔がいた。
「何してんの?夜空見てセンチメンタルな気分になっちゃった?」
彼女は隣に座りつつ問いかける。
「馬鹿にしてるんですか。そんなのじゃないです」
「じゃあどんなのよ?星にお願い事でもしてた?」
「だから違いますってば。夜景を眺めてただけです」
綺麗なものを楽しむのに理由が必要ですか、と少し拗ねたように言えば彼女は一言、いらないね、と笑うとそれっきり黙ってしまった。自分はまた空を見上げた。

不意に隣の彼女が顔を上げる。その時自分は、自分と同じように空を見上げているのだと思っていた。
しかし、しばらくして横を見ると、彼女と目があった。たまたまタイミングが合ったのではない。間違いなく彼女はずっとこちらを見ていたのだ。

「…どうかしましたか」
「いんや?キレーな顔してんなと思ってた」
「ホント馬鹿じゃないですか…頭上の空の方がよっぽど綺麗ですよ」
「そこは『君の方が綺麗だよ…』って言うとこでしょ」
「言われたいんですか」
「いや別に」

他愛ない会話を交わす2人の間を風が時折通り抜ける。それは夜空の星を運び届けるように。

年に一度の逢瀬の下で変わらぬ2人は照らされていた。